クリスマスの連休、劇団印象の「空白(そらしろ)」を見に行った。

2006年に初演があり、2008年に再演があり、今回は再々演。
最初の「空白」では自分自身が出演していた、思い出深い芝居だ。

ストーリーは、ある男が別れた妻に金の無心に来る。
といっても大した金額じゃない。今の妻に家を追い出されそうに
なっていて、引越をして部屋を借りるだけの即座の金がいるという
情けのない話。元妻はにべもなくはねつけようとするが、ねばる男の
相手をしているうちに来客がきてしまう。
その客とは、現在元妻が好いている男。
しかし元妻は知らないがその男には実は彼女がいて、それが元妻と
同居している元妻の姪っ子で、男は交際を公表しようと家に来るのだが
おばの気持ちに気づいてしまった姪っ子は交際を隠そうとして
幼馴染に彼氏のふりをしろとカオスになっている家に呼び出す。
そこに家を追い出しかけていることを後悔している男の現在の妻が・・・。
というどたばたコメディ。

 

2回目も初演と比べてそうであったが3回目の公演となる今回も、
話の根幹は変わっていないもののディテールに細かい変化がある。
セリフも、決め台詞というかそういうのは変わらないけど3回とも
見ている人がニヤリとくるものもあったような気がする。

わーわーと面白おかしく演劇らしいどたばたぶりを堪能でき、
それでいてほろりとくるラストで毎回好評のお芝居。当パンの言葉に
あったように、今回はほとんどのキャストの年齢が役者の実年齢に近い。
初演当時、役者陣は20代前半から10代。30代半ばに設定された
主人公夫婦にはあっていいのかわるいのか、軽快さがあった。
姪っ子の彼氏の職業は不自然さがないように塾講師だったし、
「年の差を考えろよ!」というセリフもあった(今回はカットされていた)。

唯一、3回とも同じ役で出演しているのが一人だけいて、それは
男の現在の妻役、岩崎恵嬢(ポップンマッシュルームチキン野郎所属)。
女流作家で何度も結婚離婚を繰り返してて、勢い余って夫を追い出して
しまったものの気になって気になって筆が進まない。元妻に勘ぐりの
連絡を入れてみたり原稿待ちをしている編集者たちを巻き込んで、
大騒ぎをする。舞台は元妻の家と現妻の家の2個所を行ったり来たり
するのだけれど、作家と編集者の関係が過去2回の公演をふりかえると
ぐっと練られて密度も濃くなっているような気がして楽しめた。
まぁ、元妻の家のシーンは出演時の自分が重なったりセリフがわかる分
(もう4年以上前だしほとんど気にならないとはいえ)やはり純粋には
客観的に楽しんでみられないだけかもしれないけど。このシーンを
ふりまわす岩崎さんが随分「女」になっていて迫力が出たように思う。
編集者たちも、どうしても出てしまう若者が舞台でお芝居を演じている感
というものがなくなってピュアに演技だけを見ることができた。

もう筋書きも見所もよくわかっているから今更ストーリーや感じたこと
に対する感想というのは正直ないんだけど、3回目の公演で余計な贅肉
がとれて面白さをしっかり抽出できている一方で、いい意味での粗さも
削られてしまうのは仕方のないこととはいえ再演の残念な処かも
しれないと思った。(今回が初見のひとは気にならないかもと思うけど。)
お客さんがうけるところ、話や演出の見所が見えちゃってるからそこを
クローズアップしすぎたり、これはなくてもわかる、という説明セリフと
まではいかないけど情報がはいっているものが省かれたり。その分、
すっきりはするかもしれないけど展開にゆとりや遊びがなくなっていく。
観客個々人が抱ける疑問というほどでもない想像の余地がなくなる。
そんな印象があった。まぁ、繰り返しだけど3回目だからかもしれないが。

筋書きに元々あった疑問点(笑)も、もう少し解消できたんじゃないかと
いう気がする。例えば、元妻の現在の恋がどうしてはじまって、なぜ
実は両想いなんじゃないかという妄想をもてたのか?とか。初演、
再演では高校生の姪の交際相手は塾講師で、保護者との進路相談
という接点があった。その時にすごく親身だった、熱く語ってくれた
というあたりを好きになってしまうし、塾講師なのに家庭訪問をして
くれるなどのことから姪を通り越して自分のことを好きなのかも?と
妄想がはじまる。本当は彼女だから熱心なんだけど、それは客だけが
わかる。前の夫がちゃらんぽらんだったから愚直でも誠実な男がいい
という思いもわかる。ところが今回の姪の恋人役は、ピアノ講師
という設定。役者に雰囲気もあっていたし面白い選択だなと思ったけど、
高校生でまだピアノをやっているというのは実は結構レアだと思うし
だとすると家でも練習をしているだろう、ピアノ講師とも長い付き合い
なんだろうと想像できる。その割には姪の保護者である元妻との関係が
希薄だし、(セリフ上説明されている)接点がなさすぎてなぜ片思いが
はじまったのかがわからなすぎる。それがなくても成り立つ、というには
元妻の今の恋というのは前半の山だから物足りない。まぁ、これを
言い出したら「元妻と姪はいつからなぜ同居しているのか?」という
最大の謎も気になってしまうんだけど(離婚もせいぜい4年前だし)。

面白ければ、演劇だし細かいことは・・・というひともいると思うし、実際
全てに辻褄があわなくてもいいとわたしも思う。だってフィクションだもの。
だけど、ロジック的・合理的な説明が、脚本に書いていなくても(というより
むしろ脚本にないバックグラウンドの部分で)できないと気持ち悪い。
この「理屈」の話は、わたしの伝え方もうまくなかったんだと思うけど
役者メインでやってた頃には演出家と意思疎通できずストレスだった。
例えば「ひとを好きになるのに理屈があるか?」という問いはノーだと
思う。だけど「名前も顔も知らない、連絡を一度もとったことがない、
異国に住むひとをある日突然好きになることがあるか?」という問いも
答えはノーだ。名前を知らなくてもいい、一度も話したことがなくてもいい、
でも街で一度すれ違った人を忘れられないという話ならアリだと思う。
わたしは後者を「理屈」と言っているのだけれどどうも前者の話として
伝わるらしく、すべての物事には説明がつけられるわけではないからと
考えすぎの烙印を押されてしまう。役作りにおいて、どういうきっかけが
あってそれをもとにどういう気持ちが大きくなっていったのか・・・に
なんでもいいから解が見つけられなければ「好き」という表現は薄っぺら
になってしまうから脚本に描かれない部分は自分で補足するのだけれど
時系列に矛盾があったり、つくった設定が他のひととあまりにもずれたら
成立しない。・・・だんだん話がずれてきたからこの辺にしとくけど。

今回、元妻を演じた龍田知美さん(T1プロジェクト所属)は、「霞葬」
「匂衣」と最近立て続けに出演してくれている非常に上手な役者さん。
対元夫、対今好きな男、対姪、対元夫の現在の妻と対峙する相手ごと
にきちんと関係ができていて、セリフ回しはもちろんのこと、これは以前
からだけど体の動きもきれい。なのにというか、だからこそというか、
それぞれが独立しちゃっていてこの元妻という役がどんな人なのか
がわたしにはとらえきれず宙に浮いてしまったような感じがした。
主人公の男と元妻だけが2つのシーンをつなぐから、キャラに芯がないと
場面場面は面白いけど全体を通したときに違和感が残ってしまう。
男の役はかなりキャラが強いし主人公だから大丈夫だったけど、
元妻は役に共感し続けられないから印象に残らない。それが、せっかく
このひとが演じたのにもったいないなぁと後から思った。


2010年はふりかえって気づけば3本も舞台があって、AAF戯曲賞に
ノミネートされるなど精力的だった劇団印象。2011年もすでに2本の
新作が予定されている。結成10周年まであと少し。がんばれ劇団印象!